アメリカでスポンジ1種類から始め、全米展開に成功したスクラブダディ物語

 今では大手小売店に並び、アメリカ市民に広く知らる商品となったスクラブダディ(Scrub Daddy)というスポンジメーカーがあります。
 初めは、スポンジ1種類から始めましたが、5年ほどで売上200億円規模まで急成長しました。
 今では、アメリカの大手小売店各社に商品が入り、全米約1万店舗以上に商品が置かれています。
 大手メーカーが大規模資本を用いて激しい競争が繰り広げられている分野で、どのようにして小規模メーカーが展開して、成功していったのか・・・
 全米展開への販路開拓戦略の1例として、スクラブダディ社(Scrub Daddy.Inc)の成長までの道のりを紹介します。

スクラブダディの歴史
そもそも、スクラブダディ(Scrub Daddy)とは・・・

 Scrub Daddy(スクラブダディ)は、研究に研究を重ねてやっとの想いで開発した、今までには無かったスポンジ専用素材をベースに、使い勝手を良くしただけではなく『楽しい!』を加えたデザインで、高性能かつ高機能なクリーニング製品を生み出しているアメリカの会社です。

  温度によって硬さや質感を変化させることができたり、匂いが付きにくかったり、頑固な汚れを擦り落とす事ができても傷を付けないスポンジとして、アメリカで最も人気のあるスポンジメーカー(America’s Favorite Sponge®)に位置付けられています。



はじめのころ・・・2006年

 スクラブダディ社(Scrub Daddy Inc)の創立者であるアーロン・クラウス(Aaron Krause)は、その当時は37歳で、グローバル展開をしているメーカーの経営陣でした。

 アーロンの普段の仕事内容は、フロントオフィスで外部とのやり取りをする事務仕事を行いながら、バックヤードで製造装置を修理してました。

 そんなアーロンにとって、手を汚すことは日常茶飯事の出来事でした。彼はフロントオフィスとバックヤードを頻繁に行き来していたいため、常日頃より「手が汚れることは面倒なことだ・・・」と思ってました。

 時が経つにつれて、そんな汚れをきれいにさせることができる唯一の製品(GOJO製品ととして広く知られている、軽石の研磨剤を配合した水を使わずに汚れを落とす洗浄クリーム。)を開発することができました。

 その開発を起点に、アーロンが14年間培ったウレタンフォームのバフ研磨パッド製造技術の経験を生かし、「もっと快適に手の汚れを落とす方法は無いものか・・・」といった考えに至りました。

 この使命とも言える課題の解決で頭の中がいっぱいになり、アーロンは新たな製品開発に着手しました。



ハンドスクラバーという商品の時代・・・2007年

 高度な技術を用いて開発したポリマー構造の成型品は、先ほどの課題を完璧に解決するものであることが解り、実際に使用してみても、優れた効果が確認できました。

 その時、アーロンは「自分だけでは、このすばらしき開発を守りきれない。」ということが頭を過りました。

 そのため、丸い形状をしていて、上側半分にギザギザの溝があり、真ん中には2つの穴があいているというデザインの知的財産権を取得し、意気揚々とアメリカ市場投入までの準備を整えました。


 アーロンは、ある自動車整備工場に、この開発したてのハンドスクラバーを販売しました。しかし、この自動車整備工場で、猛烈な逆風を受けました・・・

 アーロンが狙ったこの自動車整備という市場のお客様にとって、このハンドスクラバーは「無くてはならない商品というわけではないのに、値段が高すぎる!!」という認識を持たれてしまい、この市場のお客様の支持を得る事ができませんでした。

 アーロンは、この黄色い製品を段ボール箱に投げ込み、そして段ボール箱の横に、S-C-R-A-P(廃棄)という文字を書く以外に選択肢がない状況に陥りました。



経営していた会社が売却される・・・2008年

 多国籍多角化経営の大企業3M社は、アーロンの経営しているバフ研磨会社を2007年まで水面下で注目してました。そして2008年8月、3M社はこの研磨会社の経営の全てを入手しました。本当にほとんど全てをです。   

 そのため、何の価値もないと思っていたS-C-R-A-P(廃棄)と書かれた一握りの箱までもが、3M社の持ち物になってしまいました。



笑顔の誕生・・・2011年

 『スクラブダディ』というこの商品の名称は、家庭での家事の役割分担で、食器洗い担当のアーロンの呼ばれ方に由来しています。友人のウォートン教授からは「スクラブダディという名前は響きがカッコ悪いので、決して売れないだろう・・・」と警告されました。

 現在ではFlexTexture®(フレックステクスチャ:温度によって質感を変える素材)として広く知られている樹脂フォームは、運命的な瞬間まで手つかずのままでした。


 そんな中、運命的な瞬間は突然やってきました。それは2011年の秋の日の午後でした・・・


 家の庭の芝生の上に置いてある、テーブルや椅子などのガーデンファニチャーの汚れ落としが必要でしたので、アーロンは、普通に売られている硬めの両面スポンジを使い始めました。

 しかし、そのスポンジは、ガーデンファニチャーの塗装面を傷つけてしまいました。

 そんな中、彼は手つかずのままに置きっぱなしにして、ほこりが被っている段ボール箱の中の、あのスポンジを試すことにしました。


 頑固な汚れは見事に取れているのに、塗装面を全く傷つけていない!


 アーロンは夢中になり、頑固な汚れを落とし続けているうちに、ある事に気づきました。

 秋の午後の冷たい空気が、この樹脂の質感を変化させ、スポンジがいつもより固くなっている・・・

 硬い面と柔らかい面の2種類が引っ付いているスポンジとは異なり、それぞれの温度によって状態が変化するスポンジの発見です。

 温度がかなり低くいスーパーハードな状態では、頑固な汚れに対して極上の洗浄力を発揮しました。

 スポンジをせっけん水に戻す毎に、スポンジは柔らかくなり、簡単に温度に順応してくれてました。

 庭の家具をきれいにした後、アーロンは居ても立っても居られなくなり、スポンジを台所のシンクに持ち込み、少量の流水の中で汚れたスポンジを軽い力で握りしめ、そして手を開けてみると、真っ黒だったスポンジが黄色い顔を取り戻し、まるで新品同様に見えるくらい綺麗な状態に戻りました。

 アーロンの頭に電気が走り、このスポンジのテスト対象を、家中から探しました。


 汚れた皿を発見!!


 すぐにこのスポンジで洗浄してみました。あのガーデンファニチャーの頑固な汚れに比べれば、お皿の汚れなんて、目をつぶって洗っても落とせるくらい簡単な事でした。


 汚れたスプーンを発見!!


 汚れはすぐに落とせましたが、スポンジが硬いと洗いにくいという印象でした。

 そのため、スプーンなどの食器を簡単に洗うための『笑顔の口』が追加され、別の知的財産権を取得することになりました。笑顔のスポンジの誕生です。



全米デビュー・・・2012年

 2012年の後半、注目の記事がPhiladelphia Inquirer(フィラデルフィア・インクワイアラ:ペンシルベニア州フィラデルフィア地域の新聞。現在アメリカで発行されている新聞の中で3番目に古い。)に掲載されたときに、我々の粘り強い草の根マーケティングが成果を上げたと感じました。


 この新聞記事は、ある一人の独立ブローカーの目に留まりました。


 そのブローカーは、スクラブダディ(Scrub Daddy)の最初のQVCライブショーを実施することを使命と感じました。

 アーロンはこの時点で、スクラブダディ(Scrub Daddy)が独自の組織であることが必要と認識し、「ものづくりや販売」と「特許や発明」とを分離を実施しました。

 2012年にスクラブダディ社(Scrub Daddy、Inc.)が正式にアメリカに設立されました。

 設立後まもなく、スクラブダディ(Scrub Daddy)QVCショーの4回目のオンエアが、成功を収めていました。



人気テレビ番組出演という戦略

 スポンジの売上は、いくらかあったにも関わらず、この笑顔のスポンジを大手小売店で見かけることはありませんでした。

 アーロンはある夜、ABCで毎週金曜日に放送されているShark Tank(シャークタンク:起業家が投資家の前でプレゼンをして、投資を勝ち取るアメリカの大人気テレビ番組)を見ながら、「この「Sharks」と呼ばれている投資家の中の1人と提携することが、大手小売店販売という大きな扉を開くための鍵となり得る・・・」ということに気付いた。


 アーロンはこのテレビ番組の出演に自信を持って応募しました。


 3ヶ月にも及ぶ長い長いオーディションの末、ついにアーロンの出演が決定し、2012年7月に撮影が行われました。

 アーロンは、『シャークタンク シーズン4・エピソード7(2012年10月25日に放送)』に初出演しました。

 アーロンの最も得意とするテレビショッピング風のプレゼンテーションにて、“ Sharks”と呼ばれる投資家の中でも特に著名なLori Greiner(ローリー・グライナー:発明家や起業家としても有名で、全米テレビ番組に頻繁に出演している有名人。QVCの女王と呼ばれていることでも有名。)から注目を得る事ができました。



新たな掘り起こし・・・2014年

 全米放送のテレビ番組での露出は、商品を知ってもらう機会としての効果はとても大きく、その結果、スクラブダディ社は今までの賃貸オフィスのスペースを軽く追い越し、オフィススペースを拡大しました。

 より大きなオフィスを購入し、従業員はペンシルベニア州フォルクロフトにある現在の拠点に移動しました。


 この動きにより、ビジネスは更なる成長を促進し、

Bed Bath&Beyond(ベッドアンドバスビヨンド:全米各地に約1500店舗の展開をしている家庭用用品の大型小売店)

Wal-Mart(ウォルマート:全米各地に約5000店舗の展開をしている世界最大の売上を誇る大型スーパーマーケット店)

Home Depot(ホームデポ:全米各地に約2000店舗を展開している世界最大のホームセンター)

Kroger(クローガー:全米各地に約3800店舗を展開しているスーパーマーケット店)

Target(ターゲット:全米各地に1800店舗を展開している大型スーパーマーケット店)

QVC(キューブイシー:全米9000万世帯に向けて24時間365日放送されているテレビショッピング)

Meijer(マイヤー:全米に約240店舗展開しているレジが無い新しい形のスーパーマーケット店)

など、大手小売業者との強力なパートナーシップ展開を可能にしました。



シャーク(投資家)と歩む起業家たち

 2014年の5月に、アメリカのテレビ局ABCは20/20(ABCのニュース番組)で「Swimming with Sharks」と題された特別番組にて、我々の「Scrub Daddy」が「これまでにシャークタンクで出演して投資家から投資を勝ち取った猛者の中でも最も成功した商品」に選ばれました。

 スクラブダディは、今日までそのタイトルを保持してます!



新たな旅立ちの年、新たなデザイン・・・2016年

 スクラブダディ(Scrub Daddy)のロゴは愛着があり魅力的ではありましたが、いつの間にか見た目が古くさいものになってしまいした。その一方で、種類を増やし拡大を続ける商品群は、全体的な統一感も欠けていました。

 今後もいくつかの新商品がデビューする予定でしたので、本格的なブランド戦略において我々自身の変革が必要でした。


 近代的なグラフィックスと、パッケージデザインへの斬新なアプローチへの取り組みは、4ヵ月という期間を費やして作り出されました。


 このブランドイメージを変化させるということは、『この業界のリーダーとして力を発揮しているブランドである』という表現だけでなく、今はまだ弱者かも知れない過去の我々のような企業に対して、『果てしない未来の成功物語では無い!』ということを伝えたい我々の想いも含まれてます。


魔法の杖の登場・・・2017年

 特許取得済みのスクラブデイジー・ハンドブラシシステム(Scrub Daisy Dishwand System)は、スクラブダディ(Scrub Daddy)ファミリーにとって12番目に仲間入りした、今までとは大きく異なる商品です。

 彼女は・・・そうです、あえて彼女と言いますが、スポンジやブラシの構造設計が非常に複雑であるため、次のステージに挑戦する我々の会社にとって重要な節目となった商品です。

 このハンドブラシのシステムは7つに分かれたパーツを上手くコラボレーションさせることで構成されており、そのため構想から完成まで4年の歳月を要しました。

 スクラブデイジー(Scrub Daisy)は、一番初めにテレビショッピングのQVCを介してお客様に販売され、そこではなんと、我々が見込んでいた数量を大幅に上回り、彼女は2回目の放送で売り切れてしまいした。


魚のワッフルサンドと泥んこボール・・・2018年

 2012年に人気テレビ番組のシャークタンク(Shark Tank)で放送されて以来、再放送、フォローアップ、全米中から押し寄せるインタビュー、雑誌記事の掲載などを通じて、メディアへの絶え間ない発信が、我々チームにとっては天からの贈り物となりました。

 しかしながら、天からの贈り物を受け取るという受け身の姿勢だけではなく、我々自身が独自の力でメディアへ発信して話題を生み出す、行動の時がやって来たのだと感じました。

 それで最初に、スクラブダディ(Scrub Daddy)のTVコマーシャルを開発するという決定がなされました。 ユニークかつ皆様に愛されそうな2つのCM企画原稿『魚のワッフルサンド編(Fishwaffle)』と『泥んこボール編(Mudball)』よりTVCMの制作が開始され、そして実現しました。

 このことで、我々のプロジェクトは更なる加速を手にすることとなりました。


『魚のワッフルサンド編』

『泥んこボール編』


企業の拡張

 更に多くの商品群

・スクリーンダディ(スマホ用クリーナー)

・スポンジキャディ(シンクに取り付ける笑顔のスポンジ受け)

・シーズナルカラー(スクラブダディの追加色)

 など様々な新商品が誕生し続けてます。


 初期の頃と比べ格段に多くなった商品数を、アメリカ大手小売店(さらに海外も!)に販売するため、再び本社の拡張が必要になりました。

 そのために、本社と隣接する建物を購入し、オフィスの床面積を80,000平方フィート(約7,400㎡、2,250坪)に増加させました。同社は最初、5000平方フィート(約460㎡、140坪)から活動し始めました。


 スクラブダディ(Scrub daddy)のアメリカでの成長の歴史は、いかがでしたでしょうか。商品の認知活動を如何に行うかが、初期の段階では必要ですが、広告宣伝費は莫大な金額となります。

 小規模な起業家は、費用を抑えながら工夫をこらし、商品を知ってもらおうとします。

 商品を知ってもらわないと、始まらないからです。

 SNSにしても動画にしても、全米の人に知ってもらうためには、莫大な時間と費用がかかります。

 スクラブダディの場合は、シャークタンクという人気テレビ番組でしたが、商品の分かりやすいプレゼンが良かったのだと思います。

 ある時間内に、心を惹きつけ、商品を知ってもらい、良さを理解してもらう。

 これは、SNSでも動画でも同じことが言えます。

 小規模から全米販売への成功の一例が、スクラブダディです。キーはプレゼン力かもしれません。


↓シャークタンクでプレゼンした時の映像

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