この半年間、アメリカ市場が更に急変してます。
この市場激変の時代にアメリカに進出する日本企業は、アメリカ人の根本的な特徴を把握しなければ成功しません。
日本市場は長期デフレにより、長きに渡り物が売れない状況です。
アメリカ市場も、今までと同じやり方では物が売れなくなってきてます。
同じように物が売れない状況と言っても、日本とアメリカでは根本的な違いがあります。
そこを把握しないまま、日本市場と同じ考え方でアメリカ市場に展開していても、更に物が売れない状況になり失敗します。
それは売れない理由が日本と真逆だからです。
この日本人と全く異なるアメリカ人の特徴を把握し、アメリカ市場に対する商品展開の戦略をたてなければ、アメリカ進出は成功しません。
■欲望なき日本市場
日本は20年にも及ぶ長いデフレ不況の中で、商品が売れない状況に慣れてきてます。
中でも物心ついたときからデフレ経済しか経験していない若者にとって、高価なブランドの服を買ったり、車を買ったり、家を買ったりとの欲望は少なく、それらの行為を無駄でしかないとの考えもあります。
今では若者に限ったことではなく、給与も将来それほど上がる見込みも無いという空気が日本全体を覆い尽くし、将来が安心できないため日本人が向かった結果が、1809兆円にまで増えた日本の家計資産残高です。
購買意欲が無いので、紙幣を刷って市場にいくら投入しても貯金に吸収されてしまいます。これでは一向に景気が上向きません。
景気は市場に出回るお金の循環速度を高めなければ良くなりませんので、今の日本人の心理状態では政府がいくら市場にお金を投入しても、景気は上向かないのは当然です。
資本主義経済が始まって以来、日本人は初めて欲望がない市場を作り上げました。
この欲望のない日本市場では、実体の価値がないものにはお金を払いません。
とは言っても安価な粗悪品に手を出さないため、安ければ売れるという単純な市場でもありません。
実体の価値と価格のバランスが適正な商品は売れますが、見た目重視の中身が無いものは全く売れません。
外から見た見た目ではなく、中身の濃さを商品に求めます。
同じ価格ならより多少の派手さより長持ちする方を選びます。
この感覚でアメリカ市場に勝負すると、失敗するかもしれません。
■欲望を抑えられないアメリカ市場
世界に金融危機を与えたサブプライム住宅ローン危機は、記憶に残っているかと思います。
これはプライム層(優良層)よりも下位層のサブプライム層に対して住宅ローンの貸付を行った結果、不良債権化して金融危機を与えたものです。
ローンの返済が出来ない可能性のある顧客にお金を貸したため、住宅価格が下がると危機に陥るのは当然ですが、それよりも将来のリスクや返済計画などを考えずに家を買いたい欲望を抑えられない買手側にも問題があったように思えます。
アメリカ人は世界に多大なインパクトを与えたこの危機経験に懲りることなく、いまアメリカで騒がれているのは第2のサブプライム・ローン危機です。
サブプライム住宅ローン危機の次は、サブプライム自動車ローン危機です。
アメリカにおける自動車ローンの総額は約120兆円ですが、そのうち約20兆円はサブプライム層となっており、現在の貸し倒れ率は総額の1割にもなっています。
このことで自動車ローンを含めた消費者ローンなどの金融市場にインパクトを与えるだけでなく、新車価値で約10兆円以上の貸し倒れ者達の車が中古市場に一気に流れ込むと、新車市場に大きな影響を与え、自動車メーカーにもインパクトを与えかねません。
サブプライム住宅ローン危機で懲りることなく、次はサブプライム層が自動車ローンを借りやすくなったため、返済計画を考えるより欲望を抑えられずに自動車購入に走った結果です。
しかも、ここ最近はプリウス販売台数が低下する代わりに、ガソリンを振りまきながら走る大型ピックアップトラックが人気だったのも、欲望を抑えられないサブプライム層の影響があると考えます。
アメリカは欲望を抑えられない欲望過剰型の市場とも言えます。
これが欲望なき日本市場と大きく異なる、欲望過剰型のアメリカ市場の特徴です。
■アメリカ市場の急激な変化
そのような欲望過剰型のアメリカ市場において、いま市場に急激な変化が起こってます。
変化を起こしている原因のひとつは、先ほど記載したサブプライム・ローン危機の可能性が高まっていることです。
中間層以下のサブプライム層は、市場に対して大きなボリュームゾーンを持っています。
大量生産によりコストを下げて大量消費を行っている層です。
サブプライム住宅ローン危機のときもそうですが、この危機で最も影響を受けるのはピラミッド上位層にある大手企業です。
例えば、アパレル市場においては明確にその傾向が表れています。
サブプライム・ローン危機により、この層の購買力が急激に低下した場合、在庫によるダメージを一番受けるのは大手企業です。
日用品でしたら、必要なものですのでいずれは消費するかもしれませんが、アパレル商品は流行があるため売れずに在庫になると大量廃棄となり、売手側の大手企業は大ダメージを受けます。そして、買手側は買う事ができなければ今すぐ買わなくても良い商品です。
このサブプライム層を含めたボリュームゾーンをターゲットにしていたアパレル商品は、今起こるかもしれないサブプライム・ローン危機が迫っている中では、今までのように大手バイヤーも大量発注ができない状況となってしまいます。
いつサブプライム層が崩壊してもおかしくない状況となっているためです。
反対にプライム層が多く存在するアッパーミドル市場においては、情報過多により大量に生産された安価なアパレル商品には興味を示さないという状況です。
アッパーミドル層は、今までのようなテレビや雑誌などの大手企業のCMに踊らされる消費ではなく、自ら入手した情報により様々な個所に欲望が分散している、欲望分散型の市場となってます。
アパレルに限らず、イメージを重視している商品市場は同じ傾向になってます。
変化を起こしているもう一つの原因は、ミレニアム世代と呼ばれる人たちの購買スタイルによるものです。
ミレニアム世代と呼ばれる人は、1990年~2000年に生まれた20代~30代の人たちです。
この世代は、インターネットが日常の世代であり、商品を探すのも購入するのもインターネットで抵抗が無い世代です。
店舗で触らなければ購入は心配、といった世代とは購買スタイルが大きく異なります。
店舗で見なければ失敗するかもしれないという考えはこの世代にはなく、ウェブで購入して気に入らなければ返品すれば良いという考え方です。
もしウェブ上で複数の商品選択に悩んだ場合は全て注文して、気に入らなかった商品を全て返品すれば良いという考え方です。
更に、インターネット上であればより多くの商品を見つける事ができ、商品陳列が限られている店舗内で商品を探すことは、良い商品に出会えないと考えている世代です。
このことから、EC販売による売上高が店舗販売より上回る大手小売企業が増えています。
このeコマースの売上が上がると、全店舗にそれぞれ同じ商品を陳列して、それぞれ同じ商品の在庫を各店舗で抱えるやり方をしなくても、企業の売上高は低下する事がありません。
そのことで大手小売企業は、1種類に多くの数量を発注する必要が無くなりました。
以前のような、同じ種類を出来るだけ多く発注して価格を下げる、というやり方から徐々にシフトしている段階です。
少し価格が高くても少量発注で数多くの商品を、EC販売網に掲載する方が企業側の在庫リスクが少なく、顧客も多くの商品から欲しい商品を選ぶことができるため満足度も高いです。
今後この傾向は更に増していくものと考えられてます。
■アメリカ人の欲望を刺激する
アメリカ市場は日本のような欲望が低下市場ではありません。
商品購入を抑えられないという、欲望過剰型の市場です。
アッパーミドル層がオーガニック商品や健康のサプリなどに向かっているのは、お金の心配が少なくなった人たちの欲望が次に向かう先は、健康で長生きしたいという更なる欲望からです。
サブプライム層は、衝動を抑えられない商品にはカードローンをしてでも購入するという、欲望を抑えられない層です。そのためアメリカ市場では貸し倒れリスクが高まってます。
ミレニアム世代は、とりあえず買ってみて手に取ってから選択するというような、考えてじっくり比較して選択するという思考より、今すぐ購入したいという欲望を抑えられない世代です。
このようなアメリカ市場において、品質が良く長持ちするという日本の得意な武器だけでは勝負できません。
アメリカ人の欲望を抑えられないような商品を、如何に市場に投入するか進出の成否を分けます。
見た目の恰好良さや、他人が羨ましがるような高価なものなど、欲望を抑えらる日本人が購入するのに躊躇するような商品が、アメリカでは売れたりします。
「こんな無駄なものを」と日本人がついつい思ってしまう商品が、アメリカ市場でよく陳列されてます。
見た目と品質と価格のバランスが良い商品が売れる日本市場とは大きく異なります。
バランスを崩し、品質はイマイチで価格が高くても、見た目が良ければ欲望を抑えきれず購入するのがアメリカ市場です。
プリウスが以前売れていたのは、環境を考えて高い価格でも購入できる自分を見てほしい、との欲望をくすぐった商品だからです。
高価なので周囲から一目置かれていましたが、中古市場に安価なプリウスが多く出回った時点でその価値を急激に失います。
2017年上半期にアメリカで最も売れた車はFord F-Serieというピックアップトラックで、価格は最低クラスでも500万円以上します。
次に売れた車種はChevrolet Siveradoで、こちらも400万円以上するピックアップトラックで、その次に売れた車種もRam Pickupという400万円以上するピックアップトラックです。
必要最低限のコンパクトさと、価格と品質のバランスの高い日本車が、アメリカ市場で3位以内に入れないのは、無駄に大きくかつ派手さが無いからでしょう。
その派手さにアメリカ人の欲望を抑えられないポイントがあります。
小型、軽量といったキーワードを好み、価格の割に高機能かつ高品質を好み、かつ欲望を制御できる顧客が多く存在する日本市場は、世界でも類を見ない進化した市場だと考えます。
そんな厳しい市場でも売れる商品を作れる日本企業は、アメリカ市場でも特徴を掴むことで的確な改良を加え、売れる商品を生み出せる可能性があると考えます。
アメリカ市場に進出するにあたり、重要な改良のポイントは中身ではなく、欲望を抑えられないような無駄に大きな形状と派手な外見かもしれません。
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